Effects of Bainitic Transformation Temperature on Microstructure and Tensile Properties of 0.6C-Si-Mn Steel

1 緒 言 工具や軸受,ゲ ージなどの精密部品では残留オーステ ナイ ト(rR)が存在すると硬 さや疲労寿命の低下,切 削性 不良あるいは経年形状変化を招きそれらの性質に有害な 影響をもたらす.そ れゆえ,こ れ らに使用する鋼では rRを 極力減少させ るのが好 ましい.し か しなが ら,rR が低合金構造用鋼に存在する場合には延性やじん性が向 上するとともに低温におけるぜい性破壊の防止に役立つ 場合が多い.そ れゆえ,最 近進んで熱処理によって人 為的にrRの 量や存在形態を調整 し混合組織 として優れ た機械的性質 を得ようとす る研究が しばしば見受 けら れ1)~6)る.こ のようなrRを 積極的に利用 しようとする方法 として,近 年Si-Mn鋼 をベイナイ ト変態させるオース テンパー処理が注 目されている. Si-Mn鋼 をベイナイ ト変態 させた場合多量のrRが 残 留し,そ れによって延性やじん性が向上することが期待 されるが,機 械的性質の向上に大きな影響を及ぼすのは rRの 量のみならずその熱 ・機械的安定性(rRは 加熱, 冷却あるいは塑性変形によってマルテンサイトに変態し やすいがその変態の難易の表示である)で ある.rRの 熱 ・機械的安定性を支配する要因としてはまず添加合金 元素が挙げられるが,添 加合金元素があまり変わらない 場合はrR中 の炭素濃度,rRの 形状や寸法ならびにrRと 母相の界面の整合性などがその要因となる.そ してそれ らはベイナイ ト変態の温度 と密接に関連 している.そ れ ゆえSi-Mn鋼 のベイナイ ト変態を利用 して優れた機械 的性質を得るためにはその変態温度の影響を把握 してお くことが必要である. 本研究では0.6C-Si-Mn鋼 を用いて593~673Kの 温 度域でベイナイト変態させ,そ の微細組織 と引張特性に 及ぼすベイナイト変態温度の影響について検討 した. 2 実 験 方 法 供試鋼は大気溶解後真空脱ガス処理 したSi-Mn鋼 で その化学成分とMs温 度 をTable Iに 示す.こ の鋼を9 mm板 厚の熱間圧延板材 として入手 し,機 械加工により 圧延方向に対 して平行な試験片を切出した.こ れらの試 験片 を1173Kで900s完 全焼なましを行った後試料に 供 した.Table IIは本実験における熱処理スケジュール を示 したものである.す べての試験片のr化 はアルゴ ンガス気流中で行 い,ベ イナイ ト変態は中性塩浴中で 行った.な お,変 態時間が短いときベイナイ ト,マ ルテ ンサイ トおよびrRか ら成る三相混合組織が,ま た変態 時間が長 くなるとベイナイ ト,セ メンタイ トおよびrR の混合組織がそれぞれ生 じるので,本 実験ではベイナイ トとrR二 相混合組織が得 られ,か つ各変態温度で最大 のrRが 得 られる時間で変態させた.ま た,焼 もどしは 油浴中で行い,焼 もどし後は空冷 した. 引張特性は25tイ ンス トロン万能材料試験機を使用 して決定した.引 張試験はゲージ長 さが12.5mm,ゲ ー ジ断面形状が2.0mm×4.0mmの 平滑引張試験片 と2.0